カテ室の生産性を考える
函館市医師会病院 循環器科
中川裕也先生

北海道の玄関口であり,わが国屈指の観光都市である函館。その函館市で地域医療に大きな役割を果たしているのが函館市医師会病院である。18 の診療科があり, 199 床を備える地域医療支援病院で,1985 年に開院し,その翌年には開放型病院の認定を受けている。すなわち,地域のかかりつけ医と連携し,地域全体の健康作りに貢献する病院を目指す理念が根幹にある。そして,時代に合わせた地域の医療ニーズを満たすことも大きな目的の一つである。新型コロナ感染症を始め,近年の社会 環境はこれまでになく大きく変化した。変化する患者さんの行動様式を見極め,それに合わせた病院機能,病床の編成を細かく行うだけでなく,院内に地域医療・介護 連携支援センターや訪問看護ステーションを設け,地域 住民の医療・介護を支えている。この函館市医師会病院で循環器診療を単身で任されている中川裕也氏に,日々の診療の中で何をどう感じているのか伺った。
PCI のフィールドは成熟した
中川氏は初期臨床研修でPCI治療を見たときにカテー テル治療に興味を持ち,循環器内科医を目指した。それから約20年間にわたり,ずっとカテーテル治療にたずさわってきた。氏がPCIを始めた2004年はdrug‒eluting stent が日本での承認を受け,PCIの概念が大きく変わった年である。そのような時代から成熟期を迎え,その時代と完全にリンクしてPCIを続けてきた中川氏は,「革新的なデバイスも中々出にくい昨今,特殊な症例を除いて,PCIはある程度標準化された治療になったと言えると思いますし現状の治療環境がしばらく続いていくで しょうね」と言う。
何でもやらないといけない環境
PCIを専門にしてきた中川氏だが,今はPCIに加えてEVT治療,アブレーション治療,植込み型心臓電気デバ イス治療などにも積極的に取り組んでいる。氏は「北海 道に限らず地方に行くと,PCI 専門,EVT専門,不整脈専門など,専門的に分担できるということはそれほどないと思います。一人である程度完結できるとなると,必 然的に何でもできたほうがいいと考える先生が北海道は多いですね」と言う。広大な面積の北海道であるがゆえ,必然的に函館市医師会病院が受け持つ医療圏もかなり広くなる。アクセスの悪い地域に暮らす患者さんは通院も 一苦労だ。そうした点を考えると,できるかぎり1日のうちに完結しておきたい業務が増える。外来もこなさなければならない。「患者さんのニーズも変わってきているので,求められる治療ができないといけない,と個人 的には考えています。常に知識をアップデートして日々 診療している,というのが現状ですね」と,ハードな業 務内容にもかかわらず,氏は屈託のない笑顔を見せる。
差し迫る医師の働き方改革
急性期に遭遇することが多い循環器診療は,医師一人 に対する負担が大きい。そこに来て現場の人間の頭を悩 ませてしまうのが,「医師の働き方改革」と言われるもの だ。医師の働き方改革の理想は,すべての医療機関で A 水準(時間外・休日労働の上限:年間 960 時間)を目指 すことになろうが,循環器科のように救急が多い診療科 では B あるいは C 水準が現実的になるのだろう1)。それ でも時間外は最長で年間 1860 時間なので,診療・治療の 方法は今までとは異なったものになる可能性が出てく る。やるべきことが変わらないのであれば,仕事そのも のの効率化を図っていくことが重要になってくるだろ う。中川氏は事前の症例の情報共有が最も重要なポイン トだと考えている。事前に症例の治療内容を周知してお くことで,時間のロスは削減できるということだ。「本来 なら事前にカンファレンスの時間をたっぷりとるのが良 いことは分かっています。しかし,当院の循環器内科医 は私一人ですから,手技の詳細ストラテジーは自身で完 結できます。治療に関する情報は,全て電子カルテに記載していますので,スタッフも術前にきちんと確認して どのような機器や器具が必要になるか把握して症例に 入ってくれていると思います」。中川氏はワークフロー をできるだけシンプルに落し込んでいくことを大切にし ている。シンプルであればこそ,スタッフは自分が何を すべきかをしっかりと考えていく習慣が身に付く。そし て,中川氏に対してある程度提案ができるようになる。 実務をこなしながらその中でさまざまなことを覚え,身 に着けていくという OJT だ。マンパワーが豊富でないな ら,こうした方法をとらざるをえないし,カンファレン スに割く時間を治療に充てることもできる。こうした考えは「医師の働き方改革」に掲げられているタスクシフ トにもつながっていく。
直感的な操作感と幅広いカスタマイズ性
一人で循環器治療を行う場合,都合の良いのはどのよ うな血管造影システムだろうか。「なんでもやるなら高 度にバランスの取れた汎用性に優れたシステムですね」 と,中川氏は即答した。心臓の治療に関しても,デバイ ス治療や EVT など広い撮像視野が必要な治療において も不便を感じてないという。函館市医師会病院では島津 製作所製の Trinias が 2022 年の 11 月に導入されている が,選択の決め手になったのは低被ばく高画質の両立と 操作のしやすさを感じたからだという。タッチパネルで 直感的に操作できることは手技中のストレスをかなり低 減し,またEVTでは独自の機能が搭載されており,非常 にメリットが多い装置だという印象を持っている。「血 管走行を追い長手・横手方向に自由にパンニングしなが ら撮影を行い,撮影後に自動で長尺画像を作成する SCORE Chase は長尺画像が瞬時にモニターに出るので 下肢血管走行の全体把握が楽ですね」と,中川氏は話し てくれた。SCORE Chase は長尺画像上に透視を出さず に X 線照射野の位置が表示されるため,被ばく低減にも なる。きれいな画像を構築でき,EVT 前後の長尺の比較 画像を使うと患者さんへの説明もしやすいという。モニ ターレイアウトのカスタマイズも簡便かつ幅広くでき, 使いやすさに関しては評価が高い。そして「PCI View で は,透視のフットスイッチを踏むと実際の透視画像,外 すと一瞬でリファレンスに切り替わるので,目線を動かさずに手技ができます。治療支援という意味では重宝し ますね」と,氏は PCI をサポートする画像表示機能の説 明を続けた。また,函館医師会病院では放射線科が腹部 領域の治療にも同装置を使用しており,広い視野を有す る 12×16 インチのフラットパネルを選択した。「腹部用 にも使える大視野 FPD ですが PCI,アブレーションに 至っても特にそのサイズが気になったことはありませ ん」とのことだ。限られたリソースで多くの診療をこな せるという点でも,Trinias は効率的なカテ室運営に貢献 していると言えるのではないだろうか。また,中川氏は カテ室に設置された大画面モニターである SMAR T Dis- play を指しながら,「カテ室の大型モニターと操作室の 大型モニターがパラレルコントロールしたり,ミラーリ ング表示できたりします。外部に映像を共有すれば,遠 隔診療支援にもつながるフレキシブルなシステムだと思 います」と,将来的なカテ室の運用についても述べた。 特にアブレーションで難しい症例に対してリアルタイム で指示がもらえるようになるので,地方でも遠隔診療支 援ができるようになる。患者さんに対するメリットは非 常に大きいだろう。

テクノロジーがカテ室を変える可能性
午前中は外来,そこから予定されたカテ,さらには緊 急症例への対応。函館市医師会病院のような施設では限られたマンパワーですべてをこなしていかなければなら ない。やはりカテ室の効率化はスタッフの労力の低減に つながり,業務環境を改善する大きな一手になるのでは ないだろうか。キーワードとしてはコメディカルの協力,タスクシフト,業務の効率化などがあげられるだろ うが,これらはすべていわゆるソフト面である。結局の ところ,医療従事者の自助努力にかかっていると言えよ う。またハード面においては血管撮影システムを始め, 先進の医療機器は医療従事者の「こうあってほしい」と いうニーズを満たすべくデザインされ進化し続けてい る。これらの導入で医療従事者のワークフロー改善につ ながるのであれば,一考に値するのではないだろうか。 医療従事者の働き方を変えていくという大きな改革実施 はすぐそこまで来ている。カテ室の生産性を上げるため に,ソフトとハードの両面を考えつつ対応していく時代 が到来しているのかもしれない。

