ハイブリッド手術室の進化と循環器専門病院の挑戦
名古屋ハートセンター
循環器内科 部長 山本 真功 先生
診療放射線部門 技師長 小林 俊博 氏

循環器治療は,テクノロジーの進化とともに大きな転 換期を迎えています。外科手術とカテーテル治療の融合 がますます進む現在,その象徴とも言えるのが「ハイブ リッド手術室」です。しかし,ただ設備を整えるだけで は十分ではなく,運用体制,チームの連携,治療プロセ スの標準化など,病院全体の総合力が問われています。 名古屋ハートセンターは 2015 年にハイブリッド手術室 を導入して以来,循環器専門病院としての利点を活かし つつ,独自の運用を確立してきました。本インタビュー では,循環器内科部長の山本真功先生と,診療放射線部 門技師長の小林俊博氏に,導入当時の背景から現在の運 用,そして今後の展望まで幅広く語っていただきました。
1. カテ室を「ハイブリッド化」するという挑戦
――まずは,名古屋ハートセンターでハイブリッド手術室が稼働し始めた当時のことを教えてください。
山本 当院では,2015 年にハイブリッド手術室を設け ました。多くの病院は手術室に血管造影装置を導入してハイブリッド化しますが,当院は逆で,カテ室を “ 手術 室レベルまで引き上げる ” 方式を取りました。カテ室の 清潔度では十分ではないと判断される治療が多くなるに 従い,手術室と同等の空気清浄度で,なおかつカテーテ ル治療の動線を保つという,少し珍しいスタイルのハイ ブリッド手術室にしたのです。これは全国的にも少数派 だと思います。手術室ベースでハイブリッド手術室を構 築するなら,壁に鉛を仕込むなど大掛かりな改修が必要 になりますが,カテ室ベースであれば改修は小さく済み ます。振り返って考えてみると,当院の治療量や医師・ スタッフの配置を考慮すれば,このほうが合っていまし たね。実際に視察に来られた先生方も「これはよくでき ている」と評価してくれています。
2. TAVI から SHD 全般へ
――当初の目的から現在にかけて,運用方針は変化しましたか?
山本 かなり変化しています。最初は TAVI のための設 備でしたが,現在では TAVR/EVAR,そして SHD(構造 的心疾患)の多くがハイブリッド手術室で行われていま す。また,従来は通常のカテ室で行っていた治療でも,より清潔度が求められる症例はハイブリッド手術室で行 うようになってきました。外科的手技とカテーテル治療 が混在するケースが増えたことで,結果としてハイブリッド手術室の出番が一気に広がった形です。
3. カテ室ベースだからこその「スピード」と「柔軟性」
――手術室ベースとカテ室ベースの違いは大きいので しょうか?
山本 大きいですね。一般的なハイブリッド手術室では 天井走行式 C アームと手術台の組み合わせが多く,どう しても装置側の動きがゆっくりになる印象があります。 カテ室ベースだと通常のカテ室の装置と同じで装置の反 応が早く,手技に対するストレスがありません。スピー ディーに手技を行えることで時間的に効率的な運用が行 えます。例えば,午前中に SHD の治療が終わったら, 午後には通常の PCI を次々こなすことができる。これは カテ室ベースの特性による利点です。治療の合間の切り 替えも早く,稼働率は非常に高いと思います。 ただ,デメリットもあります。われわれのハイブリッ ド手術室はカテ室ベースなのでカテ台を使用しており, 手術に向いているわけではないので,緊急の開胸が必要 になった場合などは,外科医にとってはやりにくい点が あります。それでも今まで「カテ室から手術室に運び直 す」事態は一度もありません。
4. ハイブリッド手術室なのに稼働率が高い理由
小林 当院にはカテ室が 4 室あり,そのうち 1 室がハイ ブリッド手術室として稼働しています。アブレーション が 2 室,虚血・下肢用で 1 室,そしてハイブリッド手術 室は SHD を主体に虚血,下肢,ペースメーカ埋込など ” 万能な部屋 ” として運用できているので,スケジュール 調整が非常に楽ですね。
5. 毎週のカンファレンスが生むスムーズな運用
――チーム医療として,コミュニケーションで心がけて いることはありますか?
山本 当院は毎週 2 回,ハートチームカンファレンスを 開いています。医師はもちろん,看護師,放射線技師, ME,心臓外科医,麻酔科医などすべての職種が最低 1 人 参加するルールです。治療計画やシミュレーションを行 い,全員で症例を共有します。これに加えて,毎朝カテ 室だけのカンファレンスも行っています。治療方針やスタッフの確認・調整を細かく行うこと で,スムーズな運用を実現しています。 小林 当院ではメディカルスタッフだけ のカンファレンスも別途行っています。 また,外科と内科の距離が近く,突然の 方針変更にも柔軟に対応できます。こう したフットワークの軽さは,専門病院な らではの強みだと思います。
6. 相互信頼が治療の質を高める
山本 治療中もコミュニケーションは密です。当院の技 師は全ての手技に付き,全ての先生の手技を見ていま す。その多くの経験を元に手技中でも,医師に的確なア ドバイスができる場面も多いです。医師だけでなく,技 師の視点が加わることで,より安全で効率的な治療にな ります。若手の医師にとっても,経験豊富な技師の力は 大きな助けになっています。 小林 当院では手技が始まれば技師・メディカルスタッ フ・医師関係なく対等に発言・行動できます。もちろん 最終的には担当医師の判断ですが,チーム全体に意見を 言いやすい雰囲気があります。自分の判断が採用される こともあり,上手な先生の手技につくことで研鑽を積む こともでき,それがわれわれスタッフのモチベーション につながっています。
7.効率的な治療運用が「働き方改革」にも直結する
――PCI の件数が増えていると聞きました
山本 PCIだけでなく,SHD全体も増えています。全体 の治療件数が伸びていて,特に 2024 年は大きく伸びま したね。考えてみると,当院は治療の切り替えが速く, 1 日に全身麻酔のハイブリッド手術室での治療を 4~5 件行っても,午後 4 時頃には終わることが多いんです。 一般的には 2~3 件が限界なのではないでしょうか。こ れはチームワークと治療プロセスの標準化,時間管理の 徹底があるからこそ実現できていることだと思います。もちろん積極的に地域の先生方と密にコミュニケーションを取るよう努めています。
8. Trinias で進む治療の高度化。AI への期待も
山本 Trinias の画質はとても良く,音声認識も面白い機能ですね。近未来を感じます。手技支援アプリケー ションも豊富で,まさに痒いところに手が届く装置です。 小林 デジタルで血管画像に直接スケッチできる機能 や,フットペダルで透視保存できるのは便利です。アー ムの自由度も高く,動作速度も非常に速いので,SHD の ような複雑な治療でもスムーズに対応できます。透視保 存は音声認識の SMART Voice でもできるようになって おり,積極利用されている先生もおられます。
山本 C アームの角度も音声で設定できるようになると も聞いてますし,AI の進化によって画像の自動解析でス ケッチなども勝手に描画されたり,位置決めなどに対す る画像支援がさらに進めば治療の安全性も向上するで しょうし,新たな時代の幕開けになるのかもしれません。
9. 名古屋ハートセンターが目指す未来
――最後に,今後の展望をお聞かせください
山本 新しい治療が次々に登場していますが,当院は常 に最新の治療をこの地域に提供し続けたいと思っていま す。臨床だけでなく研究にも力を入れ,データを根拠に した治療を追求していきます。そして日本一のバルブセ ンターを目指して,これからも前進し続けます。 小林 メディカルスタッフとしても,学会発表や研究を 続けながら,より良い治療環境を作る提案をしていきた いです。

